宮園クランがなんやかんやで小説家になるまでのブログ

凡そ社会的地位の無い30代男性が小説家を目指す為のブログ

実録!宗教☆勧誘(その12)

※これは事実を元にしたフィクションです。登場する個人名・団体名などはすべて架空のものなのでご留意ください。


f:id:miyazono-9ran:20220406193905j:plain


二度のすり替えにより、私が彼女に配ったカードはスペードのエースとハートのエース、つまりは異色のペアである。

多少のアクシデントが発生したものの、勝利条件は難なく満たせた。

そう、思っていたのだが。


「やるね……」


彼女は無表情のままそう言った。


「あの、私にも見えるように、カードを表にしてくれませんかね?」

勝ちが確定していることを知りながらも、私は素知らぬ顔を装って開示を促す。


「悪くない」

口だけを動かし、彼女は固まっていた。

「予測の一歩上をいかれたというか、してやられたというか。まいったねどうにも」

なにやら視線の焦点も定まっていないように見える。


「負け惜しみですか? さぁ、早く結果を見せてください」

「あぁそうだな。ところで――」

彼女はまず一枚、カードを表にした。

スペードのエースがテーブルに置かれる。


「同色でも異色でもない、エース同士のペアが成立しない場合はどうなる。引き分けか?」


一瞬彼女が何を言っているか分からなかった。

「何を言ってるんですか。さっきちゃんとエース四枚だけで混ぜたでしょう。他のカードがまぎれる事はありえません」

どうせ悪足掻きだろうと軽んじながら、私は特段何も考えず思ったままのことを口に出した。


「だよなぁ。普通はそうだよなぁ。けどさぁ」

言いながら彼女は真っ黒な眼帯を外した。

そこには外傷の類は無い。


「ありえないっつーのは、それこそありえないんだよなぁ」




何の前触れもなく彼女は中指と親指を左目に突っ込んで


指で摘んで取り出した眼球をべろべろと舐め回し始めた




「っっっ!?」

理解不能な行動を目の当たりにし、私は彼女の顔面に釘付けになってしまう。

その虚ろな眼窩の奥には、吸い込まれそうな程の暗黒が広がっていた。


「あたしはあの子と違ってゲームは得意じゃない。本来なら結果なんて関係なく攫って引き渡すつもりだったが……気が変わったよ」


言いながら彼女は2枚目のカードをテーブルへと表向きに置く。

置かれた二枚目のカードはハートのエース――ではなく。





本来この場にある筈のないジョーカーだった





(どうなっているんだ)

私は絶句せざるを得なかった。


私が用意した52枚のトランプの山は全てエースのみで構成されている。

彼女はカードが配られるまでの間それらに一度も触れていないし、仮にすり替えようにも山の中にジョーカーは存在していない


土台無理な話であるのにもかかわらず。

目の前にはジョーカーが置かれているのである。


「いやぁ楽しめた。傑作だったぜ。当月の勧誘ノルマが未達成っつー理由であの子はお上から詰められるかもしれんが、まぁあたしの方でなんとかまとめることにするさ」

テーブルから視線を戻すと、既に彼女は真っ黒な眼帯を元通りに付け直しており、席から立ち上がりこの場から去ろうとしていた。

茫然自失のまま何も言えない私を見かねたのか、彼女はすれ違いざまに私の肩を叩いて顔を近づけ、耳元で囁いた。


「また縁が繋がれば、その時はよろしく」


私は何も答えられなかった。

彼女が何処かへ去った後も、暫くの間席を立つことができなかった。