※これは事実を元にしたフィクションです。登場する個人名・団体名などはすべて架空のものなのでご留意ください。
天笑優雅との面会を終えた後、いよいよ教団-トライヴ-一日体験ツアーの幕が明ける事となる。
先程まで地べたに首を垂れて号泣していた受付年配女性から受けたオリエンテーションによると、本日のざっくりとした予定は以下の様なものらしい。
午前:広間にての集会・分かち合い
昼食休憩
午後:座学・瞑想・分かち合い
夕食休憩
夜業※任意参加
「……ふむ」
手渡された簡素な麻色の服に着替えながら、私は2つの疑問についての逡巡を巡らせていた。
1.何故私の好きなマンガをピンポイントで当てることができたのか?
2.どうしてナガノを救出する裏ミッションを見透かされていたのか?
どちらもある程度ではあるものの、推測を立てることは出来ていた。
だがそれ故に今後より動きにくくなるというか、目立った行動が出来なくなる符合を示している様な気がした。
まず1.について。
入館時から控室に行くまでの間、なんとなく気にはなっていたのだが、この建物――普通ではちょっと考えられないぐらい、監視カメラの数が多い。
おそらく書かされたアンケートの内容を別室から拡大し覗かれていた……のではないだろうか?
目下、私がいる更衣室には流石に見当たらなかったが、逆にこちらから判別しずらいピンホール型(いわゆる盗撮などでお馴染みの超小型形状の隠しカメラ)がどこかにあるのかもしれないし、盗聴器の類が壁面や今しがた着替えた服に仕込まれているかもしれない。
団員の行動を逐一把握するためだろうか、徹底している。
とまぁここまでは想定内。
前回ナガノから強烈な勧誘を受けた経験があって、今回の私は前もってそれなりに準備してきたつもりである。
具体的には財布の中に個人情報を特定されるモノ(自動車免許証や健康保険証の類)はいれてこなかったし、スマホに至ってはSIMカードを抜いてきている。
勿論、既にナガノが他の人間に私の所在地について報告をしていたらならばこれは全く無意味な行動に他ならないにせよ、念には念を押してというやつだ。
続いて2.について。
当初、アイジマより教団-トライヴ-への一日体験入団をバイトとして依頼されたが、実はこの話には更に先があったのだ。
「なんつーか新米信者にはノルマ? みたいなのがあってよ。要は他の人間を連れてきて入信させなきゃなんねぇんだわ」
「人を沢山連れてこられたら優待される。階級が上がって待遇も良くなる。だけどよ、中にはどれだけ頑張っても一人も連れてこない奴もでてくるんだわな」
「はじめの内は諸先輩方が色々サポートしてくれる。それでも無理な場合は、やがて教祖から直接声がかかるんよ」
『あなたには 特 別 な 役 割 を与えましょう』
「まぁ皆迄言わねぇよ。でもってあの子は、もうそろそろ声がかかりそうなぐらいには、ヤバい状況だ」
「訳あってあたしは今動けねぇ。タイムオーバーになる前に、代わりにあの子を施設から連れ出して欲しい」
(この件を彼女は私以外に相談していないと言っていた)
回想しながら、私は大広間へと歩みを進める。
(なのに天笑がさも当然のように知っていたということは、つまり)
見えない密告者が、何処かにきっと潜んでいる。