※これは事実を元にしたフィクションです。登場する個人名・団体名などはすべて架空のものなのでご留意ください。
翌日。
午後より会社の方針発表会があった。
例年、全社員が一堂に会して、それなりに大きな会場を貸し切りそれなりに予算をかけて開催されていたこのイベントは、コロナまん延により多少規模が小さくなっていた。
完全リモートワーク形式で今も働いている私は、自宅からウェブ視聴での参加である。
各部門ごとの取組を聞き流している際、ウェブチャットにて通知が来た。
[いっつもいっつも長ったらしいって思わん?どうせ〇〇ちゃんもサボってんだろ??]
送り主はコダイという男だった。
入社当時1年ほど同じチームだった彼は、程なくして本社から福岡営業所へと異動、今年またこちらに戻ってきたことを社内通達によって私は知った。
私と一回り近く年が離れている彼は、勤続年数15年にもかかわらず私と同じ役職無しの平社員でいる。
末端同士仲が良いと言いたいところだが、残念ながら私は彼のことをあまり好ましく思っていない。
[しっかり聞いてますよ。もっとも仕事片手にですけど]
[またまたぁ。正直に言いなよ。スマホでも弄ってんだろ?]
[そうゆうコダイさんは何して遊んでるんです?]
[遊んでないし!今も必死に電話かけてるし!!見込み案件獲得するのに必死なんだよ俺は!!!]
[そうですか]
彼からはたまにこんな風に前置き無くメッセージが飛んでくる。
このやりとりから分かるように、重ねて私は彼の事をあまり好ましく思っていない。
言葉を選ばなければ、まぁだいぶ鬱陶しかった。
[ところでさー〇〇ちゃんは彼女出来たの?]
[いえ。相変わらず独り身です]
[駄目だよーまだ若いのに。年取ってから変な趣味にハマる前に、やれることやっとかなきゃあさ]
[はぁ]
[そういう訳でさ、土日どっちでもいいから合コンセッティングしてよ]
脈絡が無さ過ぎる提案に、うっかり殺意が芽生えそうになるくらいに、イラっとした。
45のオヤジが何ほざいてんだとりあえず今すぐにその口を針と糸で縫い付けて呼吸困難に陥れやボケナスとタイピングしたくなるも、これ以上関わりたくないのでやめておくことにした。
と、ここで。
私はアイジマからの依頼を思い出す。
[合コンじゃあないんですけど、ちょっと変わった出会いの場なら提供できそうです]
[マジで!!!!!!!???!!!!?!?!??いつ?????絶対行く!!!!!!!!]
なんていうか食いつき方がえげつない。
[了解です。日程はまた連絡します。もし都合が悪ければ教えてくださいね]
[100%空けとくからだいじょうブイ!!!!]
秒で約束を取り付ける事に成功した。
これでアイジマからの提示条件である、もう一人の人間の同行はクリアに至った。
その旨を彼女に連絡すると、次の土曜日の正午に会おうと返事をもらう。
かくして私は、教団-トライブ-の一日体験ツアーへと赴くことになったのだった。