※これは事実を元にしたフィクションです。登場する個人名・団体名などはすべて架空のものなのでご留意ください。
チャイムが鳴り、私は玄関先に立ち、扉を開けた。
「こんにちわ〇〇さん。もしかして居留守を使われるんじゃあと心配してましたが、杞憂でしたね。良かったです!」
「まぁ、約束しましたし」
ナガノはそう言ってクスクスと笑っているが、私は内心憂鬱で仕方がなかった。
「で早速なんですけど、お邪魔してもよろしいでしょうか?」
「えっ?」
「え??」
「どうして初対面の女性をいきなり部屋に迎え入れなきゃならないんですかね……」
流石に私は嫌悪感を隠せず、眉間にしわを寄せてしまう。
破天荒過ぎるだろこの女今日び生保レディーでもここまで積極的な対面営業してないぞ、などと思いながら。
というか現在、ゴミこそ散乱していないものの、自宅は断捨離の真っただ中であったので、可能な限り他人に敷居を跨がせたくなかったというのが本音である。
「……あっそっか! 〇〇さん、まだお仕事中ですよね。なるほどなるほど、ふむふむ分かりました。改めますよ。夕方18時過ぎとかには終わりそうですか?」
「たぶん――いや、やはり19時過ぎにしてください」
「OKです。それではまた改めますので、お仕事ファイトです~」
ひらひらと手を振りながら、あっさりと引き返していく彼女を見送った所で、私は玄関の扉を締め、鍵をかけた。
(今日も一人、か……)
勧誘のアポイントを取り付けたのだから、もしかすると別の人間を連れて来るのではと予想をしていたのだが。
しかし当てが外れた。
(それとも初めの内は警戒心を無くさせるために敢えて単独で動いている……とか?)
あれこれと妄想するも、当然ながら答えは出ない。
(というか何を律儀に残業含めて仕事が終わる時間を申告してしまったのだろう)
忙しいからまた別日にしてください、立て込んでいるからまた別日にしてください。
そんな永久コンボを週ごとに繰り返したならば、彼女も諦めがつくのではと思うも、もう遅い。
前回の遭遇時と同様に、今回も私は再び後手に回ってしまったのだ。
(とりあえず部屋にはいれられないから、その辺の喫茶店にでもいって適当にあしらうか……)
この時点ではそんな安直な考えの下、業務に戻っていた記憶がある。
しかしこれより先約6時間後。
その認識は遥かに甘すぎたと言わざるを得ない状況に、私は陥る羽目になってしまうのだった。