※これは事実を元にしたフィクションです。登場する個人名・団体名などはすべて架空のものなのでご留意ください。
だいぶ前置きが長くなってしまったが、ようやく。
満を持しての教団-トライヴ-一日体験入団ツアーの幕が明ける。
バスケットコート1個分ほどある広間には、すでに多数の信者が待機していた。
男女比は凡そ半々、年齢に関しても高校生から老人まで。
偏りのない、十把一絡げな具合であった。
ざっと見渡す限り30弱、それなりに大人数が一堂に会している。
と、ここで私は不意に後ろから肩を叩かれた。
「おいおい、オイオイオイオーイ! こりゃあ一体どうゆうことなんだよ〇〇ちゃん」
怪訝そうな呼びかけの主は合コンだと騙して付き添いで来てもらったコダイであった。
「始まる時間帯がやけに早い朝っぱらからなのはおかしいなぁとは思ってたんよ。なぁこれ全然合コンじゃなくね?」
「何か勘違いをしてません? 合コンに連れていくなんて一言も言ってませんよ。それにほら、僕ってコダイさんの異性の好みって知らないし。こんだけたくさん人がいれば、一人か二人ぐらいはお眼鏡にかなう相手、見つかるんじゃないんです?」
ややおどけた調子で軽口を叩いたのが気に障ったのだろう。
コダイは露骨に不快そうな表情を浮かべ、私に詰め寄り胸ぐらを掴んできた。
「なぁ、お前先輩ナメてんだろ? 今は直属の上司じゃないし、それにここは会社じゃあない。少しばかり痛い目に合わせたっていいんだぞ」
脇腹を何度か肘で小突かれる、地味に痛い。
(沸点低すぎて本当引く――どれだけ薄っぺらいんだこの人は……頭に隕石落ちてきてくたばってくれないかな)
「ちょっと。やめて下さいよ。休日に社外で暴力沙汰はマズいですって。それにほら、皆こっち見てますし」
「……はんっ! ちょっと脅したくらいでビビってんじゃねぇよ!」
慌てて私から手を放すコダイ。
そのちょうど向こう側、少し離れた壁際の辺りには。
一人ぽつんと佇んでいるナガノの姿があった。
他の信者達と歓談している様子はない。
私は一瞬、彼女へと声を掛けるかどうか迷ったが、その時すぐ後ろの扉から天笑とその取り巻き達がやってきたので、まんまと機会を逃してしまった。
「皆さまお揃いですね。それではこれより集会を始めます。まず、我らが教祖である天笑優雅様からのありがたいお言葉を頂戴しましょう。心して聞く様に」
教団-トライヴ-の上役らしき男性がそう言うな否や、広間に居た大勢の団員たちは一斉に整列し、且つ背筋をピンと伸ばした直立不動の体勢を取り始めた。
私とコダイも慌ててそれに倣い、天笑へと視線を向ける。
「親愛なる我が子らよ。皆、元気そうでなによりです。あなた達が無事でいることが、私のなによりの励みになるのですから。さて本日は――」
にこやかな表情で、しかしよく通る声で天笑はつらつらと所感を述べる。
今となっては教祖がどのような訓示を話していたかは、覚えていない。
何故ならばそれには理由がある。
和やかな雰囲気で始まったなぁと暢気に構えていた私だったが。
天笑が一通り喋った後に行われた午前の“分かち合い”。
これが あ ま り に 酷 過 ぎ た 。