※これは事実を元にしたフィクションです。登場する個人名・団体名などはすべて架空のものなのでご留意ください。
自宅に招き入れ、当たり障りのない世間話を1時間程した後。
「前置きはこの辺にしてな、実はお前に頼みがあって今日来たんだ」
左眼が義眼の彼女は、唐突に本題を切り出してきた。
「頼み、ですか」
「あぁそうだ。それにちゃんと日当も支払う。3万円。交通費は別途支給しよう」
「怪しさ満点なんですけれども」
「即断らないってことは、詳細を話しても?」
「まぁ一応聞くだけなら……」
端的にまとめると、彼女の依頼は【教団-トライブ-への一日体験入団】だった。
拘束時間は長くとも2日間、そして私とは別にもう一人連れてきて欲しいとのこと。
「実際に入れって訳じゃあないんだ。あの子がお前の勧誘に失敗した所為で色々と面倒な問題が発生しかけていてね」
「ナガノさんでしたっけ。というか、気になってたんですけどあなたは彼女の何なんですか? 双子の姉とか?」
「赤の他人だよ。今のところは、だけどさ」
含みのある言い方に、私は首を傾げざるを得なかった。
身長こそ違いあれど、目の前にいる彼女とナガノの容姿はうりふたつである。
「血縁関係でもないのに、どうしてそこまであの人に肩入れするのでしょうか」
「内緒」
「そうですか……」
「で、話戻すな。要は見学会みたいなもんだよ。ちょっと興味あって来ました的なことを言やぁ、連中はにこにこしながら懇切丁寧に自分たちの活動内容をレクチャーしてくれる筈さ」
「果たしてそれだけで済むんでしょうか」
「ご明察の通り、そうはいかない。あの手この手で強引に勧誘をしてくるだろうよ。そこはまぁ、自制心を保って己を貫き通すこったろうなぁ」
「何故自制心を保つ必要があると?」
「行けば分かるさ。たぶん、肝となるのは夜修行だろうな。ド新規達が何人もハメられるの、傍目から見て来たし」
「………………」
「で。どうするの。やるの? やらないの??」
本来であればこんな気味の悪い依頼など、言語道断で受けないのが正しい選択だろう。
しかしその日の私は、普段とはかなり異なっている精神状態にあった。
名前も知らない正体不明の女が玄関に待ち伏せていたにもかかわらず、二つ返事で自宅にあげてしまうくらいには、参っていたのだと思う。
結局私は突如舞い込んできたオファーを受けることにした。
そして帰り際の彼女へ、今更過ぎる質問を投げかけた。
「あの、お名前ってなんでしたっけ?」
「あれ言ってなかったっけ。アイジマアイコ。ニックネームはあいちんなんでよろしく」