※これは事実を元にしたフィクションです。登場する個人名・団体名などはすべて架空のものなのでご留意ください。
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週末、土曜日。
私はコダイと京都駅で待ち合わせをし、路線を二つ程乗り継いで、目的地へと向かっていた。
「ところで、本日は何故にスーツで?」
「バカだなぁ〇〇ちゃんは。プライベートとはいえバシッとしている印象を与えるにはこの格好が一番なんだよ」
自信満々に言う彼へと“それは単にファッションセンスに自信がないからとりあえず無難なものを選んだだけでは?”と尋ねたい気持ちを押さえながら、私はそうですかと応じた。
かく言う私の格好も黒のツナギであったのだし。
(ズボンを履かなくとも良いから比較的休日はこのスタイルだ)
そうこうするうちに、事前にアイジマから教えられていた教団-トライヴ-へと辿り着く。
市役所や公民館を思わせる3階建ての建物へと這入っていく私とコダイ。
靴を脱いで下駄箱にしまった後、ロビーの受付らしき所へと向かい、私は要件を伝えた。
「〇〇様にコダイ様ですね。同志ナガノよりお伺いしております。まずはオリエンテーションを行いますので、こちらへどうぞ」
ガラス窓越しにそう伝えられた私とコダイは受付らしき年配の女性の案内に従った。
「あの。一緒に説明受けるんじゃ」
二人同時に説明を受けるのかと思いきや、何故か案内されたのは別室だった。
「見学者という立場であっても、プライバシーは守られねばなりませんからね。十人十色。それぞれの価値観を尊重するための配慮ですよ」
柔和な笑みを浮かべながら、私は彼女よりA4サイズの用紙を受け取った。
「これは?」
「ヒアリングシートです。どうぞ難しく考えず、ささっと書いてください」
さも当然と促されたものの、記載事項に目を通した私は、心中で静かに警戒心を高めていく。
氏名欄の下、住所・連絡先・配偶者の有無・年収などの項目が並んでいたからだ。
(しかもご丁寧に※必須となっている)
私は何食わぬ顔で架空の住所や電話番号を書いていった。
次いで、教団-トライヴ-を知ったきっかけ・誰からの紹介で来たのか、今日常生活に悩みはあるのか、神の存在を信じるか、などの質問が書かれていた。
真実と虚偽を織り交ぜながらペンを走らせる私だったが、最後の質問で思わずその手が止まってしまう。
【あなたが一番好きなマンガ・アニメを書いてください】
(???)
これまでの事項から乖離した内容の、極めて異彩を放つ質問である。
意図が読めないまま“ジョジョの奇妙な冒険/ストーン・オーシャン”と正直に記す私。
「できました」
机に座ってヒアリングシートを書き続けている間、まるで監視しているかのように一時も近くを離れなかった年配の女性へ、私は声を掛けた。
「ご苦労様です。それではもう暫くお待ちください。じきに我らが救世の神がおいでになられますので」
「……ッッえぇえぇ!!?」
思わず声が裏返ってしまう。
何というか、流石にそれは、想定になかった。
まだ体験入団が始まってすらいない序の口にも関わらず。
私は教団-トライヴ-の頂点に君臨する教祖と対面することになってしまった。