宮園クランがなんやかんやで小説家になるまでのブログ

凡そ社会的地位の無い30代男性が小説家を目指す為のブログ

ラブ♡マイ♡ブライド【幕】

◇主要登場人物◇




☆白石天  (シライシタカシ)  : 主人公


∵緋崎藍色 (ヒサキアイイロ)  : 予測主


△水汽氷汰 (ミズキヒョウタ)  : 番人


♡伽藍真衣 (ガランマイ)    : 罪人







予感がする 呼んでいるような気がする





3月の半ば。春はまだ遠く肌寒さしか感じない気温に身体をぶるぶると震わせながら、天は目的地とおぼしき村の入り口かと思われる、重厚な木造りの門の前に到着した。



(ここが緑夜叉村、なんだろうな。きっと)



二年の浪人生活を終えて、晴れて国公立大学に合格した。次月より迎える医学部生活を前にして、自分探しと銘打った一人旅に訪れた訳などでは、勿論無かった。



(とはいえ、どうしたものだろう)



正直な所、勢いだけでここまで来た感が否めない。はるばる関西方面から国鉄に乗り私鉄に乗り、日に数本しか出ないバスに乗り継ぎきたものの、「大体このあたりだろうか」という感覚で旅路を経てきた実情も相まって、それこそ実感がない。



荘厳ともいえない門の前で所在無さげにたたずんでいると、天の後方より声が聴こえてきた。



「余所者がこんな僻地まで来て、なんのようだい」



老婆がいた。現代社会にとって違和感しかない、それこそ時代劇に出てくるような提灯を携えて、怪訝そうな表情を見せている。明かりに照らされた顔は、年相応の皺くちゃではあったが、瞳孔が殆ど限界まで開ききっている。ともすれば、ぽろりと眼球が転げ落ちそうなぐらいには。



「こんばんわ、おばあちゃん。ひとつ聞きたいのですが、ここは緑夜叉村で合っていますか?」



「質問を質問で返すとは、教育がなっていないね。とはいえ、そうだよ。この門を越えれば緑夜叉村の地内で、合っている」



「ありがとうございます。失礼しました、俺は白石天というものです。こちらに伺ったのは、ちょっと女の子を助けに来た、そんな具合です」



ハイキングに来たんです、みたいなニュアンスとトーンで質疑に応答した天に対し、老婆は瞳孔よりもさらに大きく口を開き、提灯をその場にぼとりと落とした。中にある燭台が倒れ、引しメラメラとえ始めていたが、歯牙にもかけていない。どこかひどく驚いているというか、それ以上に呆れ返っているというか、半分ずつが合わさっているようにみえた。



「ぼうやが?どこからどうみても普通で、魔力のカケラも感じられない――ただの人間のぼうやが、こたびの儀式の妨害者・・・・・・・・・ひひっ、ひゃひゃひゃひゃひゃ!そうかい、そうなのかい!おまえさんが選ばれた、いや選んだのかい!ははっ、あははは!よりにもよって、ぼうやが・・・・・・・・・くくっ、こりゃあ伽藍の娘さんもついにトチ狂ってしまったのかねぇ」



状況は分からないが、天の答えがとても面白可笑しかったのか、老婆は曲がった腰骨が上下に揺れて、腹を抱えて笑っている。



「あの女の子は、伽藍という苗字なのですね。知らなかったので助かりました。それでは俺は先を急ぐので、さようなら」



色々と尋ねたいことはあったものの、手短に別れの挨拶を済ませ、門の向こうへと歩を進める。甲高い哄笑がまだ聞こえていたが、別段何も感じなかった。






《どこにいるかも分からない。名前もしらないあなたへ。いずれんでしまうその前に。どうかわたくしを助けてください。》



その声が、女の声が日常的に聞こえるようになったのは、正確な日付は覚えていない。



ただ、消え入りそうな物悲しそうな、そんな声の主をなんとかしてあげたいと感じ、天は浪人生活に終止符を打ったタイミングで、自らの意思で緑夜叉村に来ている。



日本海を背に山に囲まれたここまで、前述の通りそれなりに時間をかけて来たことに対しては、気だるさや面倒くささは微塵もなかったが、それでもいざ着いてから、何をどうすれば分からない。今はただ地内に入り、当ても無く前に進んでいるだけなのだから。



(伽藍さんを救出するのは最大にして最終の目標として、それまでは具体的に何をすれば良いのだろう)



夜の帳が落ちたこともあり、懐中電灯で前方を照らしながら進んではいるのだが、どうにも村というには建物が見当たらないというか、人が住んでいる気配が一切感じられない。先程の老婆がいう「魔力」であったり「妨害者」であったりの、剣呑なワードが似合うぐらいには、雰囲気がありすぎている。



どこぞの配管工みたいに飛び跳ね踏んづけ左から右へとスクロールするだけの簡易な道程にはならないのだろうなと逡巡していると、門を越えてから初の建造物が眼前に現れた。



寺、あるいは神社を足して割ったような建物。入り口とおぼしき扉には蛇のような模様が大きく印されている。あたりに道らしき道もなかったので、天はとりあえず中に這入ってみることにした。



玄関らしき空間が無かった為、土足で板張りの床を進む。進んですぐに視界が開け、広間のような造りになっていた(住居の類ではないようだ)



明かりのともったまばらに配置されている置き行灯の向こう側、一人の男が立っていた。



よくよく目を凝らしてみれば、足は床についておらず、代わりに両の手のひらをぺたりとつけ、まるで時が止まっているかのように、動かない。逆立ちのポーズのまま、天に背を向けてじっとしている。



「こんばんわ、見知らぬ人。つかぬことをお伺いしますが、伽藍という女の子がどこにいるかご存知ですか」



「・・・・・・がらん、だと?」



バランスを崩し、そのまま床に大の字に、男は倒れる。倒れたその後、せきを切ったような勢いで、何の前触れも無く笑い出した。



「ぷっ・・・・・・・・・くくくっ、ぎゃーっはっはっはっはぁあ!伽藍?がーらーんー?!いやいや、マジかよ。あんまりにも襲撃が来ないからって暇で暇で暇すぎて暇を持て余して余す所無く暇に満ち溢れて、ようやく暇って奴とうまく付き合えるんじゃねーかってぐらいには感覚がマヒしかけてたって矢先に、お前みたいなタダの人間が、今回の妨害者?笑わせんなよ、呼吸困難です気か」



じたばたと手を足を床に叩きつけ、一向に治まる気配がない。なんだろう、ここの村人は笑いの沸点が低いゲラの集まりなのか。それとも普段よっぽど楽しいことがない、刺激のない生活を送っているのだろうか。軽蔑の念などは塵ほどないが、天は少なからずも憐憫の情を覚えずにはいられない、そんな気持ちになった。



「知らない、のですかね。ありがとうございます、夜分遅くに邪魔しました、それでは」



別の場所を探索するべくその場から立ち去ろうとする天に、おいおい待てよと男が呼び止める。



「そう慌てるなよ“おにいちゃん”?もらいが減るぜ?まぁ聞け。“おにいちゃん”が探している伽藍真衣の居所なら、知っているぜ」



ぴたりと、足を止めて振り返る。



「そうですか。ならばここはひとつ是非とも教えていただきたいのですが」



「タダで教える訳にはいかねぇなぁ。“おにいちゃん”が妨害者であるならば、まずはこの俺様――水汽氷汰を斃してから言いやがれ!」



目の前の男、水汽氷汰(どうにも水分多寡なイメージを抱かせる)は、天に向かってそう言い放つ。



「はい?斃すとは。俺があなたを、ということでしょうか。なにぶん二浪するぐらいには頭が悪いので、要領が掴めません」



「しらばっくれるなよ。こちとら折角戦闘モード入りかけてるってーのに、興が削がれる物言いは止めようぜ?要するにさ、し合いだよ。互いが互いの全身全霊でもって、相手を完膚なきにまです。“おにいちゃん”が魔力ゼロなのには驚いたが、ハナっからそのつもりなんだろ?」



「途中、とある老婦もおっしゃってましたが。その、“魔力”っていうのは何を指しているのでしょうか。知見が無い俺にも分かる様、説明をいただければとてもとてもありがたいのですが」



「・・・・・・・・・マジのガチに何も知らねぇんだな。いいぜ!“おにいちゃん”!冥土の土産に教えてやるよ。ここ緑夜叉村はかつての魔術師の住処の成れの果て。今でこそは薄まったが、誰しもかれしも皆がみんな、ちぃーーっとばかり特殊でな。何かしらの特殊な能力が使えるんだよ」



こんな風にな、と。言いながら氷汰は目をつぶり、左手の人差し指を額に当てて、独り言のような何かをつぶやき始めた。



『空を貫くは、一筋の眩煙』

『海を割るは、一陣の線』

『具津具々津、慈理慈々理』

放――衣降異闘!!!』



(!!!)



言い終わると同時に、び ゅ ん っ と、指を向けた先――壁際に位置する行灯が突如として轟々とを噴きえ上がった。



「ハーッハッハッハッ!どうだ、凄いだろう?ただの人間なんかには、絶対の絶対に出来ないだろう!?!」



「これが、特殊な能力・・・・・・」



思わず絶句する。視界が優れないとはいえ、天からみて、トリックや奇術のタネのようなものは感じられなかったそれは、紛れもない魔術であった。



「怖いか?恐ろしいか??呆気にとられてないでもっとビビれよ!4年と8ヶ月ぶりに楽しめると思ったら、能力者ですらねぇ雑魚の相手をする、俺ら番人達の気が晴れるってもんだぜ!!」



(つぶやいた後に、指を向けるだけで、対象をやし尽くす能力)



みると、既に置行灯だったものは黒い消炭になっていた。もしあれを自分が受けてしまえば。に身悶え、絶命は必至であろう。



「氷汰さん、でしたっけ。俺はまだにたくないので、ここは話し合いでなんとかなりませんか」



「うんうん、そーだよな。ただの人間が、モドキとはいえ俺ら魔術師と決闘して、勝てる訳ないもんな。懸命だよ、理にかなってる。とてもとーっても、お利口さんだ。でも――ダああああああああああああああああああああああああああメええええええええええダあああああああああああああああああヨおおおぉぉぉぉぉおおおおおおヲ!!!!!!!お前は妨害者としてこの村に来、そして番人である俺様と対峙した!してしまったからノーカンなんて道理ぁ、通らないんだよボケナス!!どれだけ命乞いしようが、どれほど醜く懇願しようが、お前のは免れない!それにクールぶったそのいけ好かない態度も気に入らねぇな。決めたぞ!特別力を落として、じわじわとたっぷり時間をかけて焼殺してやる。バーベキュータイムだ!ぎゃはははははははは!!!」



どうやらどうやっても相手は暴力にのみで、この場をおさめたいらしい。



「そうですか、とても残念です。こんな所で、終わってしまうなんて」



一冊の本にたとえるならば、まだ序章もいいところ。背景や登場人物のイメージが固まりきっていない、そんな最初の最初で、今までの自分は終わってしまうのか。天は嘆息し、肩を落とすジェスチャーをした。



「エラく余裕だな。だが、を身にまとったとしても、果たして同じような風でいられるのかな。試してやるよっ!!!」



先程と同じ様に、氷汰は目を瞑り、人差し指を額に当てて、天をやすべく呪文を唱え始めた。



『空を貫くは、一筋の――「遅い」



目を瞑ったのと同時に、天は氷汰に向かって走り出し、右ズボンのポケットからスタンガンを取り出し、むき出しの電極を相手の首筋に密着させ、電源をオンにした。



竹が破裂する音を早送りにしたような音と、青白い光がチカチカとまたたく。



「がっ!!!!!!あ・・・あぁ・・・・・・・・・」



目を閉じたことで状況が判別できなかった事に加え、高圧の電気を生身に流された氷汰は、左半身が筋肉の生理的な反応――痙攣を伴う萎縮によって、麻痺状態になっていた。



硬直している氷汰を、右足の平で押すようにして蹴り、倒れた上に馬乗りの形で跨りながら、天はショルダーバックを片手でまさぐり、お目当てのものであったペットボトルのキャップを開けて、中身をドボドボと氷汰の顔面にかけながら、呪文ではない独り言をつぶやく。



「一般的に、それこそマンガやアニメやドラマとかで、スタンガンを食らった対象は気絶したりする描写が多々見受けられますが、アレってば少しオーバー過ぎますよね。確かに国内で販売しているものの電圧は50万から100万ボルトはあるんだけれども、あくまで電圧ですもん。衣類の上からでも押し付ければそれなりに効くし、ちょっとばかり痺れることはあっても気絶でさえ滅多にしません。さてと、ここで科学のお時間です。電気抵抗って知ってますか?これが高ければ高いほど電撃が効きにくくなる事象なのですが、逆にその負荷を少なくする為に俺がかけているこの液体は、いったいぜんたい何なのでしょうか?」



身体の自由が効かないまま、相手に圧し掛かれている氷汰にとって、はたして天の問いかけが正常に判断できたかどうかは、分からない。しかし、顔面に浴びせられる液体が氷汰の目や鼻や口に入ったことで、だから彼はそれがなにか理解し、目に入らないように手で押さえながら、吐き捨てるように言葉に出したのだろう。



「しょ、食塩水・・・・・・・・・?」



「ご名答。そして、さようなら」



乱れた呼吸を整える為に空いた口内に、ずっぽりとスタンガンを差込んで、最大電気量に調整を行った後、電源をオンにする



バジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジ










それは、わずか15秒間の短い、とても短い時間でしかなかったのだが。






獄の遊人。水汽氷汰を絶命させるには、長過ぎるぐらいに長い時間だった。



番人なる水汽氷汰を撃退した後、天は彼の所持品を物色していた。



何だかよくわからない鍵のようなものと、くしゃくしゃになった紙タバコの箱(ライターは見当たらなかった)と、メモ用紙。



用紙には場所および人の名前らしきものが書かれている。



 処  爾  惨  至  終
 門  門  門  門  門

 水  箒  刑  数  ■
 汽  谷  部  々  ■
 氷  塗  牢  人  ■
 汰  炭  庫  々  ■



(えぇー・・・・・・まだ3人以上も相手しなきゃいけないのか――だるっ)



顔を上げ、立ち上がると、氷汰が少し前まで逆立ちをしていた後方に、外へと抜ける扉のようなものを見つけた。



(次も、その次も、コイツみたいな馬鹿ならやりやすいんだけどなぁ)



一瞬、ほんの一瞬だけ、天はなりふり構わずその場から逃げ出そうとも考えたが、例の頭に響く女の子の声が、逃走を許さず闘争に至った結果とはなったとはいえ。



齢二十にして、成り行きとはいえ人をしてしまった。正当防衛にしてはやりすぎだし、とはいえ野放しに出来るほど安全な相手でもなかった。



これ仮に警察とかにバレて捕まったら医学部通いの生活はオジャンになるのかなぁ、などと考えながら、天は次の門を目指して歩みを進める。



不思議と罪悪感は、一切無かった。



天がその場から去ったことを視認した上で、一連の流れを闇にまぎれてじっと眺めていたその男は、くつくつと微笑む。




「勝っちゃったよ。凄いね。あの崎の婆さんが太鼓判を押すだけのことはある。それでも、放っておけば、すぐにんじゃいそうだな」



よーし、と。男は背伸びをしながら、爪先立ちで立ち上がり、自分がやるべきことを声に出して、認識する。



「おじさんがちょっくら、手助けしてあげよっと」






[FLAME MAN] is Breaked!!


To Be Continued...▶︎▶︎▶︎Next【流】





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