・前回・
【とある対話】
「全くもってお笑い種だね。断片的な事象から紡ぎ合わせたにしては牽強付会も甚だしい、猥雑に特化したゴシップも良いところだよ。嫌だねぇ~本当に嫌になっちゃうねぇ~。文明開化からたかだか一世紀とちょっとの身近な期間で時間と距離の概念をぶっ壊したインターネットが台頭してきたとはいえ、周知する側が無能じゃあ物事の本質なんて分かりっこないのに。きゃははっ、とはいえこの一件に関してはがっくんが噛んでるみたいだし、嘆いたところでどうしようもないのかな」
『御託を並べるのは結構だが、お前の目的が果たせたかどうかという質問に対する回答をはぐらかすな』
「んもぅ怖いなぁ! そうやって険悪な雰囲気っつーか剣呑なオーラ醸し出すのやめなよぅ。折角ノッてきたのに、怒られるのは嫌だからさーメディアが美貌や健康に対して煽りまくってる現状と考察に関してはまたの機会にしておくけどさー。うん、回答。回答だね。結論から言うと、坂田翁改め十三番目の誘拐被害者は無事回収済。色々調べたけれど、がっくんが欲してた守護者関連の情報は持ってなかったし、生粋の魔術師でもなかったみたい」
『そうか。それは残念だ。拙いながらも僕なりに調査をして、彼の出自や現状から可能性を感じてはいたが、徒労と終わるか』
「どう見ても60歳のおじいちゃんには見えないもんね。奇病で有名なロイコジストロフィーは徐々に若返り最終的には脳細胞が破壊されて死に至るというけれども、この子の場合それは見受けられなかったし……。つってもまだ脳は解剖していないから不明な部分が多すぎるけど、10歳半ばから時が止まっているとしか思えない見た目だもんねぇ」
『お前が町でそいつと会った際に、まるで目が見えていたように振舞っていた件はどう解釈する。義眼はおろか眼球が無い状態で、山中の自宅から静間市を往復するなんて、実際に出来るものなのか?』
「実際に出来ていたから出来ていたとしか言いようが無いね。でもさー、あれじゃない? るろうに剣心に出てくる十本刀の……名前ちょっと忘れちゃったけど、琉球出身の盲剣の人いたじゃん。あの人みたく目が見えなくなって視覚以外のその他感覚が異常発達して見えていないのに見えているように感じてたんじゃあないかなぁ。その時は未だ自分がよぼよぼのおじいちゃんだと思い込んでいたみたいだけど」
『その時は? なら今は違うのか』
「うん。自分を誘拐して執拗な洗脳を施し30年以上監禁生活を強いた土岐子おばあちゃんが前々日に起きた酒屋強盗殺人事件の犯人である子供達に殺された際に、心的トリガーが引かれて覚醒。ついでに失われた視覚も回復。身柄を確保した時にも既知だったあたしの事、認識するのにだいぶ時間かかってたし」
『あぁ。そういえばお前、老婆の様に見られて発狂しかけてたもんな』
「やー実際あたしもそれなりに年を食ってるけど、それでも中年の警察官を誘惑できる程度の器量は備えてるっつーか、意図的に外見を20代前半に設定しているのに、どうやらこの子は目が見えるように振舞える分、多少歪んで世界を見ていたっぽいのよ。絶対者である土岐子おばあちゃんを絶世の美女だと認識していたり、あたしが肉と一緒に渡した札束を強奪するべく坂田翁が帰るのを尾行していた七人の子供たちを異形の化け物だと認識していたり、ね」
『ガキどもをけしかけたのはお前だろうに』
「やりすぎたとは思ってるよ? 天下の往来でこれ見よがしに見せびらかすようにして大金を渡したのは、それなりにややこしい問題を生んだのは事実さ。そこはまぁ人攫い稼業筆頭である叶芽さんの腕の見せ所ってもんで、ついでとはいえハロウィンの夜に仮装した七人の子供以外に坂田翁を付け狙おうとする他の奴らをまとめて掻っ攫えたから御の字だしいいんじゃない」
『この件で得をしたのはお前だけという訳か。あー……なんだろ。癪に感じてきたからとりあえずその両手両足を食い散らかしてみても良いか?』
「ちょっ!? やーめーてーよー!! がっくんのソレ、ビジュアル的にかなりグロいから晩御飯食べられなくなるじゃん! それにあたしは義を見てせざるは勇無きなりをモットーに頑張ったつもりだよ? 遊ぶ金欲しさに酒屋一家を惨殺した中学生に上がりたての子供たちは後天的な魔術師として覚醒した坂田翁の手によって全員死亡! ついでに元凶である土岐子おばあちゃんも因果応報よろしく惨殺体となって死亡!! 残されて力の使い方が分からず闇雲に逃走していた坂田翁は途中であたしが見つけて確保して魔術の力はそのままに人造魔導少女に転生!!! 良い事尽くめしかないじゃないのさあ!!!」
『前から疑問に思っていたんだが、男性でも大人でも分類は少女なのには明確な理由があったりするのか?』
「うーふーふー。バカだなぁがっくんは。少女の方が可愛いからに決まってんじゃん! 少女という概念はねぇ~、いわば奇跡であり浪漫なのさ。もはやこれは特撮戦隊モノに憧れて感銘を覚えるのが当たり前な男の子の感性に近しいものがあるに違いない。ねぇねぇ、ちなみに何レンジャーが好きだった?」
『生憎ながら僕はライダー派だ。許容できたとしてもメタルヒーローシリーズ迄だな』
「なんですとぉ!? じゃあ今回はあたしが一歩譲るから一緒にせーので蒸着ごっこでもやろっか!」
『やらない。もういい、大体わかったから話を元に戻そう。緑夜叉村の生き残りで行方をくらましていた綺羅星ねねについてだが――』
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【了-企END-】