妹からのメッセージ内容が異なるものとなった後、一方的に人攫いをして人数を減らす訳にはいかない状況に変化する。
なぜならば、今までと打って変わって、向こう側からもこちらに対し襲撃を試みるようになったからだ。
幸いタカシと二人で居る時が大半であったが、時と場所を選ばずに襲い掛かかってくる不特定多数の成人男性の群れに、呆気なく不意打ちにて一方的にリンチされることになるかと思いきや、その点タカシは抜かりが無かった。
電気銃や警棒は通常装備で、挙句の果てには爆薬まで使い出す始末。捕らえた刺客が気に入らなかったのか、嗜虐心を刺激されたタカシが暴走し、あやうく自宅の風呂場が全焼しかけたが、古い知り合い(だと一方的に言い張る)リフォーム業者の手によって、数日後には前よりも立派なジャグジー付バスルームに変貌を遂げた。襲われるのも悪くないなどと錯誤してしまいそうになる。
非現実的が常である日々が日常と化し、そして更に3週間が経過した。
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PM8時頃、空腹により目が覚める。冷蔵庫が空っぽであった為、晩御飯を買いに行くことにした。
昨晩よりタカシは僕と別行動をとっている。なんでももうすぐ妹の居城が割れそうなのと、人数集めで忙しいから戻らないとの事だった。朝から自宅の掃除をしていた僕は、疲れていつの間にか眠りについてしまっていた。身体を起こし、コンビニに向かう。
玄関を出て、10分ほど歩き、現地にて食料を買い込み、帰路につく。
途中、女性が数人のゴロツキに絡まれている場面に出くわした。
シーンそのものはこの街ではよくある光景である。ありすぎて眼に留める必要も無く、関わらないのが暗黙の了解でもあるのだが、何故かその女性に僕は一瞬釘付けになってしまった。
燃えるような赤い長髪が、頭の天辺から膝の辺りまで垂れ下がっている。原色豊かな色とりどりのアロハシャツのインナーに、夜の夕闇を宿したような漆黒のジャケットを羽織る彼女は、常人なら恐れおののくであろう状況にもかかわらず、紙煙草を咥えてシニカルに笑っている。
ふと、家の鍵を閉めたかどうかが気になり、視線をさげてポケットをまさぐっていると、低くそして短い悲鳴が数名分聞こえてくる。顔を上げると、取り囲んでいた男達は皆々地にうずくまっていた。真っ赤な女性の姿はどこにも見えない。
「にーさん、美味そうなもんたくさん抱えてんね」
「?!・・・・・・君は」
「あたし?あたしはアミだよ、よろしく。ていうかにーさん、買出し?晩御飯の。男なのに料理とか出来ちゃう感じの人?」
「あれは、君が一人でやったのか」
「まぁね。ここじゃそれぐらい出来なきゃ安全に過ごせないと言うかなんというか。まま、そんな事はどうでもいいんだけどさ。にーさん、あたしちょっと運動したらお腹が減っちゃったよ。それ、少しでいいから分けてよ」
「もしかして今、カツアゲされてる?」
「違うよー、ったくケチだなぁ。一歩間違えばにーさんが絡まれてボッコボコにされて身包み剥がされて海に沈められていたかもしれないのにさ。ちょっとぐらい食料分けてくれたっていいじゃんかよー」
「分かったよ、じゃあこれ。これならすぐ食べられるだろ」
「ありがとう!初対面の人間にカニカマを無償で提供するとか、聖人かな?ここに来るまで随分長い時間かかったからねー。身に染みるよ。あ、そだ。にーさんが巷で噂のKMSの片割れの、ハジメさんだったりするのかい」
「そうだけど。なんだよ、君も女神の三十指の一員なのか」
「違うよー、なんでも決め付けはよくないよー。いやさ、にーさんがもしもだよ。もう片方のタカシって奴ならこの食料に毒物混入させるぐらいするんじゃないかなぁーって思ってさ。なんでも彼って医者の卵らしいじゃん。それもとびっきりに飛びぬけた才能の持ち主なんでしょ?流石のあたしも毒盛られたらやばいかなぁーって」
「タカシも知っているのか」
「この街でにーさん含めたお二人さん、今めっちゃ知名度高いから、誰でも知ってるんじゃないかな。3桁越えの賞金が掛かっているとか、ご存知でない?」
「高額なのはあくまでタカシだろ。それ関連の動画は視聴したけど、あくまで僕はオマケみたいなもんだ」
「ふーん。当事者意識は希薄なんだね、相変わらず。まーいいや、食べ物分けてくれてありがとうね!」
「これからどこにいくんだ?」
「もう少しだけ、この街に滞在してみるよ。探しているものが見つかりそうなんだ、やっと。にーさんも頑張るんだよ、じゃあね」
次の瞬間、女性は跡形も無く消えていた。先程までのやり取りが幻だと倒錯するくらいに、寸分違わず消失していた。
改めて家路を目指して歩き始めながら、ふと気づく。
なんか僕普通に喋ってなかったか?、と。
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それから三日程して、タカシが戻ってきた。
「やぁハジメさん。やっと姫、いや妹さんの潜伏先が特定出来たよ。それとついでだけど、三十指も残り4本までに減らしてきて、こちらも味方を何人か加えてきた」
曰く、放火魔・強姦魔・殺人鬼の肩書きを持つ3名が、我らがKMSに参入する運びとなった。
登場人物のキャラクター性が軒並み反社会的であるのはさておき、いよいよ妹と対峙する時が来たらしい。
明日未明、僕は彼女と出会い、何を思い何を感じ、どう行動するのだろうか。
残虐の限りを尽くした妹へ、しっかりと向き合う事ができるのだろうか。
このままいけば、彼女が捕らえられ凌辱され弄ばれ、死に至るのは自明の理である。
本当にこれで、良いのだろうか。
それでも、
それでも僕は。
▽やはり妹は殺すべきだ
△それでも妹を助けたい
To Be Continued...▶︎▶︎▶︎Next【?】