宮園クランがなんやかんやで小説家になるまでのブログ

凡そ社会的地位の無い30代男性が小説家を目指す為のブログ

きる☆まい☆しすたぁ【省】

間曳野市淘汰町。



元号がもうすぐ変わる間際だというのに、この街の治安は最悪だった。



失業率や犯罪係数は国内最下を毎年更新し続け、暴徒で溢れかえる町並みは行政は愚かあらゆる機能が正常に働いていない有様。



そんな掃溜めじみた町並みで、僕は平凡に暮らしていた。件の通知を受け取るまでは。




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スマートフォンにURLだけ記載されたショートメッセージが届き、いつもならスパムだろうかと開封すらせず消去するのだが、なんだろう。虫の知らせに似たなにかを感じ、ブラウザを立ち上げ、指定のページに飛んでしまった。



よくある下卑たスナッフビデオであった。椅子に縛り付けられた被害者が数多の銀の刃によっての海に沈む。



惨劇が繰り広げられる中、懐かしい声が聞こえてきた。



「おにいさま。嗚呼、おいたわしやおにいさま。わたくしは、待っております。あなたに逢えるまで、仇花を摘む作業を続けます」、と。



姿こそ未確認だが、おそらく10年前に生き別れとなった妹に違いないという、確信があった。



それを切欠にして、毎日昼夜時間を問わず様々な拷問の様を記録した動画サイトのページが送られてきた。妹らしき女性の声は最初と変わらず、悪趣味な一連の様を見続けることになる。



進展のない日々を重ねていたある日、妹の元婚約者を自称する男が我が家を訪問してきた。



「お初にお目にかかります、お義兄さん。早速だけど、アンタの妹さんぶっすのに手を貸してくれないか?」




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白石天(シライシタカシ)は、開幕早々あっけらかんとした笑みのまま、著しく常識に欠ける文言を吐いていたのが記憶に残っている。ほぼ誰にも明かしていない僕の自宅まで辿り着いた経緯を聞くと「伽藍なんて珍しい苗字、国内にそう居ないですよ。それに調べる手段は星の数程ありますし」などとはぐらかし、とうとう最後まで種明かしはしてくれなかった。



僕はタカシに近頃送られてくる一連の動画について話した。撮影しているのが妹なのか?実行犯は別に居るのか?この一連の意味不明な光景の真意は何なのか?



謎が謎を呼ぶ。僕は堰を切ったように彼に様々な質問を投げかけた。



「理由はよく分かりませんが、これは確実に妹さんの仕業だと思いますよ」



一瞬間違いだと言う答えを欲した僕は愚かであった。直感は正しかったのだ。



しかし、ここで気になったのが、まだ10代である彼女がどうして悪逆無道の限りを尽くしているのかについて。それに動画内で妹の声は聞こえているものの、暴行を加えているのはどう見ても屈強な男達である。



「これは最近理解ったんですが、彼女の回りには汚れ仕事を請け負う複数名の人間が、実働部隊として取り巻きを為しているようですね」



あぁ。だからこの動画サイトの投稿者名、“女神の三十指”ってなっているのか。なら少なくとも30名以上はいるのか、ずいぶん大所帯なんだな。と、不謹慎ながら僕は笑ってしまう。



一人で寂しい想いはしていないようで、安心する。友達というものは、大いに多いに越したことがないのだから。



「まぁ三十指だろうが六本腕だろうが、一本づつ捥いで行けば、いずれ妹さんに辿り着くでしょう。というか、お義兄さんって結構変わり者なんですね。普通怒りません?実の妹をす宣言している人間が前触れも無く尋ねてきて、何の疑問もなく自宅にあげて、ご親切にお茶まで出している。普通じゃないですよ」



愛想笑いで誤魔化したが、下手に刺激すると僕の生命まで脅かされるのではないのかと不安だった為、様子を見ていたというのが本音である。恐らく彼の右目が無い原因は元嫁?である妹がやったのだろうから。経緯は分からなかったが、これも不思議と確信があった。



「分かりました。それではお義兄さん・・・いや、ハジメさんと僕のタッグ名を決めときましょうか」



女神に対峙するに相応しい名をつけて下さいよと頼まれる。



なんとはなしに、妹をすをそのまま英訳し頭文字を取った、KMSに決まった。勿論そこには深い意味などない。



というか、まだ実感がなかった。先程からというか動画が毎日送られてきた頃から、どうにも現実味が沸いてこない。



曖昧模糊として、夢なのかと疑うほどに日々が不鮮明で不明瞭だった。理解が追いついていないままに事はどんどん先へと進んで行く。



この時点では、僕はまだそこまで自分が置かれる状況に危惧していなかった。




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数日間タカシと行動を共にして分かった事がある。



コイツは人攫いと拷問のプロだ。それも特上の、A級ライセンスを保有しているのではと見紛うほどに、鮮やかに迅速に無駄なく軽やかに所作を行う。



身長170cm少々で痩せぎすな彼は、ありとあらゆる手段を使って対象を確保する。ある日三十指の一員とおぼしき、2メートル近い元格闘家崩れを拉致する様は圧巻であった。



手際は前述の通り華麗の一言で、4日間にも及ぶ監禁及び折檻の様は、文字に直すもおぞましい。当事者にとっては地獄ですら生ぬるい、苦痛と恐怖の無限連鎖だったのだろう。当然、その後元格闘家は表舞台に出てくる事は二度と無かった。



「勘違いしてもらっちゃ困るんですがね。俺が攫って嬲って遊ぶのは犯罪者か、或いはそれが表に出ていないだけの悪党だけですからね。因果応報ですよ、犯ったらり返される覚悟がないなら、最初っから悪いことするなって奴です」



それこそお前の匙加減だろとは口が裂けても言えなかった。



どんなルートで情報を得ているのか全く分からないが、タカシは次々と三十指に携わる人間を捕まえは拷問し、処分し続けた。



僕はその様を傍らで見ている。



自らは加わらず、指を咥えて眺めていた。



相変わらず現実味はなかった。



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そんな生活が2週間ほど続いた後、暫くの間届いていなかったURL付メールの着信音が鳴る。そこにはいつもの惨状は無く、首から上が見えない服を着せたマネキンじみた何かが映し出されていた。



「おにいさま。うふふ。どうやらお友達が出来たみたいね。わたくしの兵隊さん達が、近頃どんどん減っていっているの、おにいさまだけの仕業だけじゃないのでしょう。早く私の元に辿り着いて。遭いに来てくださいまし、おにいさま」



語気こそ荒くないものの、どこか凄く怒気を孕んだニュアンスにぞっとしない。動画を一緒に見ていたタカシに至っては、眼球が存在しない眼窩を指でぐりぐりと穿りながらゲタゲタと嗤っていた。掻き毟る指には、うっすらとが滲んでいる。



「おぉ~なんだよなんだよ姫ったら想像以上に元気そうじゃんなんだよなんだよ久々に声聞いたと思ったら相変わらず人の神経逆撫でするのうまいなぁ~本当に本当に本当かわいくてかわいくて憎くて憎くて脳味噌が飛び散りそうだよっていうかなんで姿見せねエンダヨてめぇええええええええええ!!!」



情緒不安定なのは付き合いだしてから十二分に知ってはいたつもりなのだが、その怒っているのだか喜んでいるのか判断に苦しむ言動と表情と行動はどうにかならないものかと逡巡する。



興奮した彼の手によってリビングの窓が全て割られたせいか、吹き荒ぶ隙間風がやけに寒気を感じさせた。




To Be Continued...▶︎▶︎▶︎Next【10】




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