宮園クランがなんやかんやで小説家になるまでのブログ

凡そ社会的地位の無い30代男性が小説家を目指す為のブログ

第114514回港北区最強紙飛行機決定戦備忘録

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西暦1998年5月20日水曜日、ついに雌雄を決する頂上決戦が幕を開けようとしていた・・・・・・・・・。



AM:6:24、宮園クラン少年、起床。


「~~~~~~ッしゃらあああぁぁああ!!!喧嘩祭りじゃゴrrrrrrrらぁあああああああ!!!」



外国製のコーンフレークを牛乳で流し込み、ペットであるナンシー(ロシア産23歳♀)にハイタッチを決めつつ、自宅を飛び出る。待ちわびた、ようやくこの日が来たんだ。思えば今日の為にこの世に生を受けたかもしれない。数奇な運命に感謝しつつ、テンションはMAXを振り切っており、奇声を上げながら連続ロンダートにて決戦のバトルフィールドへ赴く(2秒で飽きて普通に徒歩で登校)



AM:7:02、駒森小学校5年2組教室内、猛者集結。



「彡(゚)(゚)おお、ようやくおいでなすりましたでゲスかクラン氏!」



「たぬ吉!たぬ吉じゃないか!!いやぁ実に14時間ぶりの再会になるな!達者にしていたか!?」



「彡(ー)(ー)わての事はどうでもいいとして、それよりコンディションはどうでゲスか?今回は歴戦の強敵も入り混じった魑魅魍魎跋扈するカオス&カオスな伏魔殿・・・並大抵の機体じゃ苦戦どころか同じ土俵にすら立てないのでは・・・・・・」



――紙飛行機(かみひこうき)とは、紙で飛行機を模した形を作り、飛ばして遊ぶもの――。



一枚の紙を折って作る折り紙飛行機を指すことが多いが、こと今回の第114514回港北区最強決定戦では、機体に紙が含まれていればなんでもありのバーリトーゥド。一番長い距離を飛ばせた者が勝者、 そ れ が 全 て である。尋常小学生達がキャッキャウフフしているなんてとんでもない。燃え滾る熱き闘志なり闘魂なりが場を支配し、飛び火した熱気で用務員室が全焼したが中に誰もいなかったのでそれはそれでセーフ。



「安心しろ、その点に関しては、ばっちりだ。史上最高傑作を用意してきた。誰が来ようと絶対に負けない」



「彡(^)(^)おぉぅ?いつも給食でレーズンパンを必ず残すクラン氏にしては珍しく強気でゲスね。一体どんな機体を引っさげてきたのでゲスか??」



紙飛行機はペーパークラフトの一種であるが、他の多くのペーパークラフトが形に重きを置くのに対し、飛ぶ(滑空する)という工学的な機能に重きを置く点が特徴である。つまり如何に長時間滞空し、空気抵抗を味方に付けるかが勝負のカギではあるのだが。天才は敢えて凡人の逆を行く、それが世の摂理。異端こそが至高、異能こそがジャスティス。



「たぬ吉、残念だけどな。俺の機体には、、、」



・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
俺 の 機 体 に は 翼 が 無 い



クラン少年が大業に小学生特有のどれだけ自分が凄いのかアピールをしようとするないなや、教室のドアが勢い良く開け放たれた。



「くっくっくっ・・・僕様を捨て置いてずいぶん面白そうな話をしているじゃないか」



「「「どっ、ドラゴン崎くんっ!?」」」(モブ一同)



小学校高学年とはいえ、150cmをゆうに越えるその肥満体型な大柄な男の子の名は、ドラゴン崎ゆうま。人呼んで、資本主義の豚。



ローレル指数は250超過、資産家の父の財力を恩恵に、日々暴飲暴食贅沢三昧を過ごす彼もまた、この大会に名乗りを上げてきたのだ。



「おいおいおいクラン、ずいぶん息巻いているみたいだけど、本大会の優勝者は僕様だって、それ一番言われてるから」



「馬鹿やろうお前俺は勝つぞお前。つーかお金持ちのボンボンが賞金も出ないこの大会に出て何のメリットがあるんだ?あぁん??」



「分かってないなぁ君は。下々の奴らが騒いでいるこの乱痴気騒ぎに選ばれしこの僕様が優勝して最強だと知らしめる格好の場じゃないか。それにこの機体を見てもまだ、余裕ヅラかましてられるのかなぁ???!!!」



「「「なにぃ!あの機体は!!!」」」(モブ一同)



彼がかばんより取り出したそれは、まるでスパイ映画に出てくるような、どこからどう見てもラジコンにしか見えない物体だった。



「彡(゚)(゚)は?(威圧)これ完全ラジコンやんけ。はいルール違反お前の負け~でゲス」



「たぬ吉くんはとうとう人間辞めちゃったのかな?みろよここ、ちゃんと紙が貼ってあるダルルォ?!」



確かによく見てみると、テールローターの部分に“どらごん山大可ゆーま”と、殴り書きをした折り紙が貼ってある。前述の通り紙が機体に含まれている。というより、紙が機体に付随しているようにも見えるのだが、そこはご愛嬌。



「あいつ絶対友達なくすタイプだよな」

「それな。あからさま過ぎるだろどうみても」

「必死すぎて痛いよなぶっちゃけ」



規格外の機体の登場でざわつく教室内。誰もがドラゴン崎の勝利でこの大会が終わるのを予想し、興醒めムードが漂いかけた所で、後ろのロッカー付近の机がガタッと音を立てた。



「悪いけどこの勝負、アタシの勝ちは揺るがないよ」



「「「ぶっ、毒島さん!!??」」」(モブ一同)



私服登校にも関らず意地でも毎日セーラー服を着てくる、名前とは裏腹に綺麗な容姿をしたその女の子の名は、毒島カヲル。人呼んで、かおりん



普段は教室の隅っこで愛書ドグラ・マグラを読み耽っている彼女もまた、女性ながらにこの大会に参戦してきたのだ。



「札束で何もかも叩きつぶすアンタが、そういう暴挙に出てくるのは目に見えていた」



「はぁはぁ、、、かおりん今日もかわいいでふね、、、はぁはぁ、、、もし良かったらこの大会終わってから僕様といっしょにロクヨンスマブラしない?、、、はぁはぁ」



「勝手に盛ってんな捻じ切るぞ。まぁともかく、優勝するとか言う寝言はこの機体を拝んでから言ってよね!!!!!!!」



「「「なにぃ!あの機体は!!!」」」(モブ一同)



彼女が一度教室から出て、廊下から引きずってきたそれは、まるで中世の戦争映画に出てくるような、カタパルト(投石器)であった。無骨な木材で素組みされたそれは、傍らに鈍く黒光りする鉄球を携えている。鉄球にはレシートらしきものがセロテープで貼り付けられており、“五年二組毒島カヲル”と筆ペンで名前が記されていた。



「いかにアンタの機体が自走式で電池が切れるまで飛行を続けたとしても、アタシのこの毒島式弩級砲台によって撃墜は必至!!」



彼女が言い放った通りである。よくある少年向けコミックのバトル描写よろしく、なんの動力も有していない無機物がご都合主義にて物理法則を無視した動きにより展開を繰り広げる場面は、往々にしてあるのだ。登場も早々に噛ませ犬と化したドラゴン崎には、十中八九勝利の女神は微笑まないだろう。



「もはやかおりんの機体って紙飛行機ですらないよね」

「でも女子だしかわいいし別にアリだよな」

「なんやかんやでおっぱいも大きいしな」



優勝一角だった牙城が突如として崩れ、静まり返る教室内。誰もがかおりんの勝利でこの大会が終わるのを予想し、熱狂に幕が下ろされるかと思った瞬間、窓面が淡く優しい光に包まれた。



「勝ち誇っている所悪いのだが、私を前にしてもまだ、笑っていられるのかい?」



「「「かっ、神山君!?!?」」」(モブ一同)



凡そ小学生には見えないカリスマ性を余す事無くなく発揮し、文字通り全身から光を発する彼の名は神山ゴウ。人呼んで、ゴッド神山。



生れ落ちてから齢2歳にして東北の新興宗教団体の教祖である彼がこの大会に参戦して事に、誰もが驚きを隠せないでいた。



「哀れだな。その驕りが、いつだって自らを破滅に追いやる。見るに耐えなくなったので、私が直々に引導を渡してやろう」



「まさか創造主のコピーたるアンタまで参戦してくるとはね、、、だが、如何に神といえどもアタシは負けない!」



「だからそれが傲慢だというのだ。教えてやろう、人の子よ。私の前には全てが無に帰すということをな」



「「「なっ、なにぃ!あの姿は!!!」」」(モブ一同)



眩い光が辺りを照らしつくした後、彼は一枚の聖布を纏い背中からは12もの対になる翼を生やしていた。見たものの罪を洗い流し、全てを許し包み込む、まるで聖母マリアを想像させる様なその姿は、誰もがこの大会自体を開催する意味がないと錯覚させるほどに、場を圧倒していた。



「これぞ“神碑黄器”・・・・・・蛇に唆されたあの女の末裔たる貴様らには、未来永劫到達できない領域よ」



静寂が場を支配する。誰もが思った。神である彼には誰が挑んでも勝てないのだと。いや、もはや挑む事すらままならない。同じ土俵に立っていないのだ、次元が違う。



やがて一人また一人と、許しを請うように。あるいは情けを願うように、信仰の言葉を呟き出し始めた。



「神山 is GOD、神山 is GOD、神山 is GOD」

「神山 is GOD、神山 is GOD、神山 is GOD」

「神山 is GOD、神山 is GOD、神山 is GOD」



暴力ですらない、理解が及ばない、彼我の境すら認識できない、その絶大なるチカラの差を前に、成す術も無く大会の幕は閉じてしまうのだと、誰もが思った。






だが、






クラン少年だけが不敵にニヤリと嗤った。






「・・・・・・何が可笑しいのだ」






「いやさ、ふふっ。なんていうか、ほぼ全裸でアルカイックスタイルな所、邪魔しちゃって悪いんだけどさ。神山、」






俺  は  神  を  殺  す  ぞ  ?






ナイキのショルダーバックより彼が取り出した其れを見て、神山の顔が歪む。






「なっ、、、これは、、、」






「「「なっ、何ぃぃいい!?!?」」」(モブ一同)













































その日、台風11号が関東を直撃し、大会は開催されずに終わった。


おしまい。